<特別対談企画②> 災害大国として、「国土強靭化」のロードマップを
「減災・防災」こそが、国土強靭化のカギ。そして、日本のインフラに有効な技術は、海外でも、
間違いなく求められるはず……。衆議院議員初代国土強靭化大臣の古屋圭司氏と、弊社創業者 兼 代表取締役会長の冨田洋が、
ジオ・サーチの過去から現在、そして未来の姿について語り合いました。
- 冨田洋
- 今日はよろしくお願いします。古屋議員との出会いは2014年3月14日に遡ります。
- 古屋圭司氏
- ちょうど9年前にお会いしたわけですね。
- 冨田洋
- 2011年3月の東日本大震災の直後に、私たちは現地入りして、約1年間かけて1940キロメートルの道路を調査しました。その結果、3000箇所以上の道路下の空洞を発見し、発生メカニズムも解明しました。まさにその翌年の2013年12月4日に、「国土強靭化基本法」は立法化されたのです。策定の中心人物が、当時の古屋大臣です。
- 古屋圭司氏
- そうでしたね。
- 冨田洋
- 「国土強靭化基本法」はそれ自体が画期的でしたが、まだ道路の陥没問題は含まれていませんでした。そこで私は古屋議員へ面談をお願いし、2014年3月に、地震による空洞多発現象を説明させて頂きました。さらに、9ヶ月後の12月には、解明された空洞発生メカニズムを説明いたしました。
- 古屋圭司氏
- こちらこそ大変勉強になりました。当時の私は安倍晋三元首相から、「国土強靭化」についての指示を承っていました。災害に強い国をつくるため、明確な目標と精緻な定義を明らかにするようにと。当時は、自民党が政権に復帰した直後で、民主党政権時代に大幅に削減された公共事業を、どう正当に復活させるかが課題でした。
もちろん〝無駄な公共事業〟は省くべきですが、しかし、ご存じの通り日本は天災が多い国です。地震、台風、火山噴火……、そうした国土に老朽化したインフラは危険極まりない。必要なインフラ工事や修繕は、きちんとコストをかけて対応しなくては、人命に直結します。そこで私は1年半かけて「国土強靭化基本計画」をつくり上げたのです。あれから10年経ちますが、基本的な考え方はいまだ陳腐化していないと自負してます。
- 冨田洋
- その流れの中で、我々ジオ・サーチも2015年3月、初代国土強靭化古屋大臣賞を受賞いたしました。その年の4月には、第一回レジリエンス協議会のワーキンググループに参加し、具体的な政策提言もさせていただけたのは貴重な体験でした。
- 古屋圭司氏
- 国土強靭化のカギは、「減災・防災」です。地震も台風も、発生自体を止めることはできません。ただ被害を最小限化することはできる。専門家に「日本全国で起きうる現象(でも、起きてはいけない現象)」を45挙げてもらいました。
道路が老朽化して陥没する、川で落橋事故が起きる、森林が荒れて大規模な山崩れや森林崩壊が起きる、石油コンビナートが地震で火の海になる……、それぞれどういう検査を行い、フォローアップしていくべきかの道筋を明確にする必要がありました。
- 冨田洋
- どれも想像したくない光景ですね……。
- 古屋圭司氏
- ええ、だからこそ国土強靭化は、日本にとっての最上位計画なのです。そして、そこで非常な活躍をみせてくれたのがジオ・サーチさんです。
2017年の九州北部豪雨後の復興、博多駅前の道路陥没事故など、緊急の際はすぐに駆け付けて、見事な技術で復興を助けてくれる。海外の人からは、「自分の国なら数年かかる復旧工事を、日本は一週間でこなす」と称賛の声が上がっていますが、その陰には、ジオ・サーチさんの極めて正確・高速の探知技術があるというわけです。
- 冨田洋
- 「命と暮らしを守る」が、我々のモットーです。日本の「国土強靭化」の概念と、まさに一体です。
しなやかに復興する「レジリエンス」のノウハウを、海外へ
- 古屋圭司氏
- ジオ・サーチの技術は、医療に例えるならCTやMRIによる検診です。日本には現在、橋が約73万橋ありますが、それらは基本的に打音検査の対象です。医療に例えるなら聴診器ですね。もちろん打音検査で不具合が発見されることも多いですが、ジオ・サーチの技術はさらに精緻です。老朽化している箇所をピンポイントで探り当て、しかも老朽化度合いまで分かってしまう。「この橋は今すぐ修理しないと落橋の恐れあり」という赤信号から、「将来的には補修が必要だが、優先順位は低い」という黄色レベルまで。補修する自治体にしても、資金や人手が無限ではない以上、このノウハウは非常にありがたいですね。
- 冨田洋
- 今、アメリカでは道路の陥没事故が多発していますし、台湾も日本同様地震の多い国です。日本のインフラに有効な技術は、海外でも有効なはずです。
- 古屋圭司氏
- 余談ですが、日本には火山が111もあります。そのうち常時監視火山は約50ですが、実は日本は地震対策に比べて、火山対策は後進国です。例えばイタリアでは、1火山に対して監視研究者は2.8人もいますが、日本の場合はたったの0.36人しかいません。
もちろん何人で見張ろうが、噴火を止めることはできませんが、注視していればいつ頃噴火するかのタイミングは分かります。2000年に北海道の有珠山で噴火があった際には、北海道大学の研究者や大学院生が1年365日見事にチェックしていたおかげで、事前に察知することができました。周辺住民に事前避難勧告を出し、負傷者0人で済んだのです。こうした姿勢こそが、まさに「人の命を守る」の象徴とも呼べるのではないでしょうか。
私は将来的にはアメリカのFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)のような、危機管理庁が日本でもできると思っています。普段は省庁ごとの縦割り組織でも、いざ大災害が起きた際には、一元的にライフラインを調査・管理・修復すべく、省をまたいで横串の連携が取られるべきだからです。
- 冨田洋
- その構想はとても重要です。やはり国や地方自治体、あるいは個人の土地にしろ、調査するには民間企業の力だけではどうにもなりません。
世界中で、スケルカ―が走り回る光景へ
- 古屋圭司氏
- 2023年2月にはトルコ・シリア大地震が起きました。死者5万人を超す大災害には非常に心痛みますが、ただ、かの国の建築基準法を見ると、すごく厳しい。
- 冨田洋
- つまり基準は厳しいけれど、現実には実践できていなかったということですか。
- 古屋圭司氏
- そうなのでしょうね。
- 冨田洋
- ただ、建物の耐震問題もさることながら、あれだけ大きな地震が起きると、地下には相当の空洞が生じているはずです。一般的に震度5強を超えると、空洞が多発することは解明されており、表面上問題なくても、復旧前にしっかり地下を調べないことには、将来のリスクが消えません。
- 古屋圭司氏
- 途上国へのインフラ支援も日本国にとって大切な課題ですね。今、東南アジアやアフリカ諸国に対して中国が莫大な〝インフラ支援〟を行っています。ただ、その目的や質はどうなのか。なかには、支援で建てられた〝国会議事堂〟で数年後に雨漏りが始まり、しかし設計図も建設した人材もすべて中国に引き上げてしまっているので手元に何の資料もなく、修復できないケースも。そこは結局、巨大な青ビニールシートをかぶせてしのいでいました。
- 冨田洋
- 景観上の問題もさることながら、例えば護岸工事や道路工事などで同様のことが行われているとしたら、それは非常に由々しき事態です。人々の生命を左右しますから。
- 古屋圭司氏
- そんなの到底「支援」とは呼べませんよ。現地の人が本当に欲しいのは、安心・安全・将来に向けての生活の目途です。細やかな聞き取りや、良心的なサポート、最高の技術力といったパッケージングこそが、日本式の途上国支援の在り方ではないでしょうか。
ただ同時に、他国へ日本の技術を輸出する際、気を付けるべき点があります。それは知財流出リスクです。せっかく日本の良心に従い他国のインフラ整備に力を尽くした結果、気づいたら「スケルカー」もどきが他国で堂々と走っている……ことは何としても避けなくては。これは一企業の財産のみならず、日本国としての経済安全保障問題でもあります。「個社の技術を守る」=「日本の技術を守る」ことと意識して、採用者に対するスクリーニングから、技術保全にいたるまで、気を付けていただきたいと願っています。
- 冨田洋
- 同感です。弊社技術はもちろんですが、情報管理にも注意する必要があります。
情報の観点で今後注力していきたいのは地下の3Dマップ化です。例えば埋設管を確認するための「試し掘り」は原則目視でアナログの不正確な記録しかありません。関係者間で情報共有しにくいので、同じ場所で無駄な「試し掘り」をくり返すこともあります。そのため、スマホで「試し掘り」箇所を3Dデジタル化するアプリも実用化しました。さらにスカルカによる地上・地下インフラ3Dマップを併用すれば地下のDXマップが実現できます。有事にすぐにそのエリアの地下情報を皆で共有でき、減災や復旧に役立てることができます。こうした「情報」も、守るべき対象になりますね。
- 古屋圭司氏
- あと、地下情報であれば、個人的に興味深いのが遺跡調査分野です。例えばエジプトのピラミッドにはいまだ眠れる墓や秘密がたくさんあるはずです。将来的に数十メートルの地下データもスケルカが解明できれば、これは全世界的なロマンに繋がりますよ。
- 冨田洋
- 実はスケルカ技術のキーとなるマイクロ波は、乾燥地帯こそ得意分野なのです。エジプトは乾燥していますので、可能性は大ですね。
実は日本でも、先日とある土地で1500年前の石棺を偶然見つけてしまったんですよ。古い遺跡など下手に触ればその時点で崩壊してしまいますが、弊社の技術なら触らずに中の状態が手に取るようにわかります。今回の墓は未発掘で、盗掘もされておらず、人骨や矢じりも残されており、貴重な遺跡であることがわかりました。
- 古屋圭司氏
- 将来が楽しみですね。現在、スケルカーは34台とのことですが、これではまだまだ全然足りません。遺跡調査にしろ、減災・防災のためにしろ、あと二桁増やさなくては。世界中に何千台ものスケルカ―が走る光景を、私はぜひとも近い将来目にしたいですね。
- 冨田洋
- 力強いエールをいただき、ありがとうございます! 今後の励みにいたします。
▼古屋圭司氏プロフィール
衆議院議員(岐阜5区、当選11回)。成蹊大学経済学部経済学科卒業、大正(現・三井住友)海上火災保険にて勤務。故・安倍晋太郎外務大臣などの秘書を務めた後、平成2年、第39回衆議院総選挙にて初当選、現在に至る。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」。政治信条は「真の保守政治の再生」。
著書に『そうだったのか!!「国土強靭化」』(平成26年PHP研究所)他がある。