<特別対談企画①>「地下」は、人類に残された最後のフロンティア
柳井俊二氏(元・外務事務次官、元・駐米大使、現・国際海洋法裁判所・判事)×冨田洋
日本発、世界初の「GENSAI」技術を持って、グローバルへと羽ばたくジオ・サーチ。元・外務事務次官である柳井俊二氏と、弊社 創業者 兼 代表取締役会長の冨田洋が、世界的規模から考えるジオ・サーチの価値について語り合いました。
- 冨田洋
- 柳井さんと初めてお会いしたのは1994年のことでした。今も鮮明に覚えています。
- 柳井俊二氏
- そうでした。当時、私は外務省の総合外交政策局長で、国際平和貢献に力を入れていた頃でした。冨田さんとの出会いは、衝撃的でしたね。
実は私は国際法が専門でして、これまでも宇宙や深海底などの国際法に関わってきたのです。地球上の土地はすべて探検つくされて、今後は「宇宙」と「深海底」が、「人類最後のフロンティア」となるといわれている時代でした。
ところが冨田さんの話を聞いていると、「地下こそ、最後のフロンティアでは?」と目からうろこでした。宇宙や深海などはるか彼方どころか、そもそも自分たちが立つこの足元数十センチ下ですら、わかっていなかったのですから。
- 冨田洋
- その後も柳井さんには、ジオ・サーチの国際貢献に始まり、アメリカ進出など、多くのご支援をいただいています。
- 柳井俊二氏
- 私たちが最初にお会いした1990年代初頭は、ちょうど東西冷戦が終結し、世界中で地域紛争や内戦が多発していた時期でした。ボスニア・ヘルツェゴビナや、ソマリア、アンゴラ、モザンビーク、カンボジア……。
こうした地域は、ひとまず紛争が落ちついても〝平和〟がいつまで続くかわかりません。国連がリーダーシップをとり、「国連平和維持活動」いわゆる「PKO(Peacekeeping Operations)」を展開し、日本も1992年からカンボジアで平和維持活動を開始しました。
ところが、始めてみてわかったのは、「平和維持活動」の最大の障壁は「地雷」だという事実です。その土地を支援したくても、そもそも人々の住む地域に膨大な地雷が埋まっていて、それを除去しないと何もできないのです。その分野で、ジオ・サーチさんには大いに助けられました。
- 冨田洋
- 「地雷」は「貧者の兵器」とも呼ばれているそうですね。攻めるときには使わず、逃げるときに地中に埋めていく。プラスチック製対人地雷は簡単につくれて、小型でリュックにいくつも詰め込み、ポンポン地中に埋めていったと伺いました。
- 柳井俊二氏
- 対人地雷は相手を殺すためではなく、手足を奪うための武器です。相手の兵士を地雷で負傷させれば、その仲間は彼を助けなければならないので、相手側の戦闘力を奪うことができます。そのような対人地雷が、原っぱや畑に多く残されてしまっていたのです。
- 冨田洋
- プラスチック製対人地雷は発見が困難です。従来だと金属探知機か犬により探知できましたが,プラスチック製だと金属探知機に反応しません。しかも探針棒を使用するので、非常に危険を伴う作業でした。
- 柳井俊二氏
- そこを、ジオ・サーチさんがマイクロ波を活用して画期的な手法を考案したわけですね。
「日本だからこそできる世界貢献がある」と緒方貞子さんに言われた
- 冨田洋
- 1992年、国連から突然連絡が入りました。ちょうど世界初の路面下空洞探査システムを実用化した頃で、アメリカで発表した論文を見つけて、国連の初代PKO局地雷除去責任者パトリック・ブラグデン氏が訪ねてきたのです。
「ジオ・サーチの技術で、非金属性の地雷を見つけられないか」という質問でしたが、砂箱に持参されたプラスチック製対人地雷ケースを埋めて実証テストを行い,空洞探査システムによりプラスチック製対人地雷が理論的に検知できることを証明しました。
その2年後の1994年に、今度はスウェーデン政府から突然連絡がきたのです。聞けば国連の推薦で、その年にストックホルムで行われる「地雷除去関係者会議」に参加してほしいとのこと。正直、当時の私は「地雷」に関する知識も興味も薄く、しかし国連の推薦を無視することもできず、仕方なく参加したのですが……、そこで人生観が変わりました。
その会議で地球上には地雷が1億個以上も放置されており、毎日のように子どもも含め一般市民が犠牲になっている現状を知り、愕然としたのです。
- 柳井俊二氏
- その事態に声を上げられたのが、当時の国連難民高等弁務官の緒方貞子さんでした。
- 冨田洋
- ストックホルムでの会議の翌年,1995年に第1回国際地雷除去会議がジュネーブで開催されました。そのジュネーブでの国際会議で,緒方さんが凛として基調講演をされていました。各国の屈強な軍人たちが最敬礼し、講演後は拍手喝采。私も「日本人ここにあり」と感動しました。私は外務省の要請で5ヶ国代表として考案した、新たな地雷探知技術(スケルカ)のコンセプトを発表しました。発表後に緒方さんから言われたんです。「冨田さん、世界中で地雷を輸出していないのは日本だけなのよ。だから日本は堂々と胸を張り、『これぞ日本が世界に貢献できる一番の分野』で成果を示しなさい」と。
- 柳井俊二氏
- そして冨田さんは、実際に行動に移されました。1998年には地雷除去活動を支援するNPO法人「人道目的の地雷除去支援の会(JAHDS)」を発足。カンボジアやタイなど、多くの土地で地雷撤去に成功されてきましたね。
- 冨田洋
- 柳井さんが、「NPOをつくったら」と助言してくださったおかげです。私の師である,セコム株式会社創業者の故・飯田亮さんに理事長を引き受けていただいたおかげで,多くの企業や団体,個人も参画し,現地視察を通じて様々な得意分野における協働活動に発展しました。
- 柳井俊二氏
- 技術力を持つ若い方にとって、日本が国際貢献している姿を見るのは嬉しいことのはずです。日本は平和を維持できているのだという人達がいます。しかし、憲法第9条をかざすだけでは外敵から日本を守ることはできません。日本が内にこもり自ら紛争を起こさなければ、平和は守られるというのは幻想です。他国に攻められた時の自国の安全保障もしっかり考え、かつ日本と関係の薄い国でも、困っている人がいるなら日本の技術力で助ける。その姿勢こそが「日本の平和」にもつながるのではないでしょうか。
- 冨田洋
- 私のもう一人の師、京セラ株式会社の創業者の故・稲盛和夫さんも、同意見でした。「常に〈世界から尊敬される日本・日本人〉を目指しなさい。それが事業屋の一つの使命だよ」と。企業である以上、利益確保も大切ですが、技術力を生かして人々の暮らしと命を守る社会貢献をしていくことは、当社の使命の一つでもあります。
日本が誇る技術力を世界に伝えていく。「GENSAI」を国際語に
- 柳井俊二氏
- ジオ・サーチさんが世界にインパクトを与えるもう一つのカギが「減災・防災」分野です。日本は地震大国で、知識や技術力も高い。昨今は地球温暖化で、世界中で激甚災害が頻発しています。2022年にはアメリカのカリフォルニアで現地法人を設立されましたが、かの地も地震が多く、大雨になれば道路が陥没し、夏の熱波では大火事に悩まされています。課題あるところ、ジオ・サーチさんの出番ですね。
- 冨田洋
- アメリカで驚いたのは、電柱の多くが木製だということです。最近の猛暑で電柱が燃えて停電を多発させるため、電柱の地中化は待ったなしですが、しかし,埋設物がどこに埋まっているかわかりません。
- 柳井俊二氏
- 従来の方法では調査や工事に時間がかかりますが、ジオ・サーチさんならすぐでしょう。
- 冨田洋
- 地雷探知技術(スケルカ)をもとに進化した埋設物調査手法により,素早く正確に地下埋設物の3次元化が可能です。
- 柳井俊二氏
- アメリカはとにかく広大です。カリフォルニア州だけで、日本の国土の1.1倍。アメリカ全土で50州ありますから、コストや時間が削減できるのは大きな魅力で、しかも精度も高いとなれば、それだけで巨大市場が眠っているともいえます。
しかもアメリカは訴訟国家です。火事、水害、地震などが起きると、一夜のうちにNPO/NGO、民間ボランティア団体のテントが張り巡らされるのも見事ですが、その間に相当数の弁護士事務所テントが張られる光景もまた、アメリカならでは。店子が大家を訴え、大家は市当局を訴えるなど自然災害の後も訴訟が頻発します。国も自治体も企業も住民も、被害が未然に防げれば大変ありがたい。実際、「減災・防災」は英語になりつつありますね。
- 冨田洋
- ジャパン・ハウス ロサンゼルスでは減災に関する展示会が開催されていて、驚きました。もう一つの追い風は、バイデン大統領が1兆2000億ドル(当時で約140兆円)もの莫大な資金を、インフラに投資すると宣言したことです。アメリカでは、今後インフラ事業が増大していくはずです。
- 柳井俊二氏
- ジオ・サーチさんのアメリカでの成功は、必ず世界に広まります。でも一番の〝成功〟は、もはや世界中の人が「ジオ・サーチがどこの国の会社か」なんて意識しないくらい、認知度が上がることですね。それぞれの国の人が「自分の国の会社だ」と思うくらいの存在感に成長することを期待しています。
自然災害は止めることができません。でも、被害を防ぎ又は軽減することはできます。トルコの地震を見ても、本来、防げたはずの人災が少なくありません。その意味でも、ジオ・サーチの事業は、ある種の公共事業に近いとも感じています。
- 冨田洋
- ありがとうございます。私たちの目標は「パブリック・ベネフィット・コーポレーション」であることなんです。将来的には、企業評価尺度が「売上」だけでなく、「社会貢献度」も含まれるような社会風土に、日本が変わってくれることを期待しています。
- 柳井俊二氏
- 少々大きな話になりますが、「みな平等」を目指したはずの社会主義や共産主義は、結果的に成功しませんでした。ロシアも中国も東欧社会主義国家もみな、専制君主制になってしまった。ただ、我々の資本主義社会でも貧富の差が拡大しています。アメリカでも富裕層が住む地域のインフラと、低所得者層が住むスラム街のインフラは雲泥の差です。
今後は、「社会貢献もきちんと果たす資本主義」に進化していく必要があります。ジオ・サーチさんは、そんな新時代の先駆者になるのでは。我々もまた、「平和貢献」や「GENSAI」といった分野ではオールジャパンで、日本の存在感・貢献度を示していくべきだと思っています。
- 冨田洋
- 社会貢献意欲が高い若者も増えています。日本は私も含めて「技術オタク」が多く、そのレベルも高度です。その反面で、真面目な国民性と狭い国土では、国内で実証実験をするとなると規制などもが多くて難しいです。「技術開発は日本で、社会実装はアメリカで実現させて,さらに世界規模で社会を変えていく」のが理想的でしょうか。
今後も唯一無二の企業として、頑張っていきますので、これからもご指導よろしくお願いいたします!
▼柳井俊二氏プロフィール
東京大学法学部卒業後、外務省に入省。在フランス大使館、国連代表部、在インドネシア大使館、在韓国大使館にて勤務。東京では、条約局長、総理府(現内閣府)国際平和協力本部事務局長、総合外交政策局長、外務審議官などを歴任。外務事務次官(1997年7月-1999年9月)、駐米大使(1999年9月-2001年10月)を務めた後、2005年より国際海洋法裁判所・判事となり現在に至る